地球の歴史
‐地球微膨張説による‐


星野通平著

地球の歴史 ‐地球微膨張説による‐ 


イー・ジー・サービス出版,日本,札幌,2014年,234ページ.
press@egs.co.jp. ISBN 978-4-9903950-5-6.
英語版 5,000円,日本語版 4,000円 (税別,ハードコピーのみ)

  私は,地質学の根本問題は,地殻の隆起と沈降であり,しかも,地殻の隆起(地球の微膨張)は,地球の歴史の主役であり,地殻の「沈降」は偽りの姿で,真の姿は,地殻の隆起に伴う海水準上昇による「沈水」である,と考えている.

 本書は,私の研究結果を,旧著との重複をまじえながら取りまとめたもので,この考えは,従来のオーソドックスな地質学の考えとも,最近流行のプレート説とも,ひどくかけはなれたものである.しかし私は,地殻の形成にかかわる地球半径の微膨張が,様ざまな地質現象と古生物の歴史に重要な影響をあたえた根本原因であると考えている.(「まえがき」より)

 地球の歴史は,誕生から始まって幼年期の始生代(花崗岩時代);青年期の原生代・古生代(漸移時代);壮年期の中生代・新生代(玄武岩時代)といった生物の個体の一生と同じ経過を歩んできた.そして地球の固化のため膨張をやめた日に,地球は死をむかえることになるであろう.

 この地球の微膨張は,地球の表面をほぼ同一のレベルでおおう洘水準の上昇遀動に表現されている.つまり,古生代初期のサンゴ化石の年輪から推定される一年は400 日であった.現在,一年は365 日である.このことは,地球の半径が当時にくらべ数10 km 大きくなって,その自転速度がおそくなったためである,といわれている(Wells, 1963 in Holmes, 1965).私は,地球の微膨張の足どりをたどってみよう.(「Ⅰ.地球の起源」より)

 地史の間における海水準の上昇は,台地の隆起と大洋底玄武岩層の形成といった,地球の微膨張の結果で,地殻の「沈降」は,海水準上昇によってもたらされた「沈水」現象である.私は,膨張の傾向にある地球において,火山活動による内部物質の噴出,圧密によって地層水の排出による地盤沈下など,地球の内部物質の排出がないかぎり,地殻の沈降はないと考える.(「Ⅱ.海水の構造地質学的諸問題」より)



書 評


柴 正博

 著者である星野通平は,東海大学と中国海洋大学の名誉教授で,現在91才である.本書は,彼のライフワークである,海水準上昇の視点から彼のジオテクトニクス研究の集大成したものである.

 最初に彼は,日本周辺の大陸棚の堆積物を研究し,最終氷期の海水準が約100m低かったことを明らかにした.次に彼は,海底峡谷が後期中新世以降の2,000mの海水準上昇によって形成されたと仮定した.その仮説は,西地中海盆のメッシニアンの蒸発岩の発見によって証拠だてられた.

 1970年代前期に彼は,海溝は地殻の沈降するところではなく,大洋側の隆起から取り残された溝であると考えた.海溝底の白亜紀のサンゴ礁を頂くギュヨーの頂上水深が4,000mであることから,彼は中期白亜紀の海水準が現在よりも4,000m低かったと予測した.そして,ジュラ紀以降の岩流圏起源のソーレアイト玄武岩活動による広汎な大洋底もふくむ地殻の隆起とそれによる海水準の大規模上昇によって,現在の大陸と海洋の形成と,古陸上生物が移住に使った陸橋の沈水を説明した.

 1991年に彼は,バイカリアンとバリスカンの残留盆地が,古い準平原面(海水準)の基盤をもち,バイカリアンの残留盆地の準平原が現在の海水準より約11km低いことを報告した.そして彼は,地球の歴史を,花崗岩時代(始生代)と漸移時代(原生代と古生代),玄武岩時代(中生代と新生代)の3つに区分した.

 これらの研究から彼は,「地質学の基本的な問題は地殻の隆起(地球の微膨張)である」とし,そして地殻の「沈降」は架空の現象であり,真の過程は地殻の隆起による海水準上昇による地殻の沈水であると,現在確信している.私にとって,それはとても理にかなった見方であると考えられる.

 本書では,地球創生からの地殻とユースタシーの歴史が示されている.それは,50km以下の地殻の隆起と海水準の上昇によって支配されている.それぞれの時代に地殻は形成され,地球表面の位置は上昇し,そして地球表面の地形が形成された.本書では,以下のように地球の微膨張の歴史がドラマティックに語られる.

 地球の誕生の早期にユークライト隕石が,その後に原始地球の表層を形成したエンスタタイト隕石が集積した.前者は岩流圏を,後者は最上部マントル(岩石圏下部層)を形成した.

 花崗岩時代(始生代)には,岩石圏下部層から大気,水圏,花崗岩地殻が分化した.この時代の構造的なパターンは,緑色岩帯によって取り囲まれ中央に配列された花崗岩や片麻岩のたくさんのドームから構成されている.これらのドームの直径は,100km~800kmに達する.

 漸移時代(原生代と古生代)には,マグネシウムの多い超塩基性マグマとカルシウムの多い塩基性マグマが混合して形成された層状火成岩体の活動により,隆起した台地が形成された.二酸化炭素や水蒸気を含んだ原生代の高温の大気は,隆起した台地を激しく浸食し,広大な準平原をつくった.そしてさらに,台地のまわりの海は堆積物で埋め立てられた.海面は上昇して,台地域は浅海によっておおわれた.ストロマトライトの厚い層がその浅海に堆積して,苦灰岩を形成し,同時に大量の酸素を大気に放出した.

 台地の間の海は,隆起した台地から厚い堆積物の供給をうけて埋積され,初期の地向斜が始まった.多くの現在の地向斜帯の底が,現在の海面下50kmほどの深さにある.星野は,この深さが後期始生代の海底であったと考えている.原生代最末期(バイカリアン時代),今から10億年前に,海面は現在にくらべて11kmほど低い位置まで上昇し,そのとき地球上のいたるところに準平原が形成された.この面の大部分が現在の太洋底の下の現在のモホ面を構成している.

 幅の広い地向斜盆の場合,古期・新期台地である中央台地が隆起したときに,双方向の花弁状の逆断層を生じた.その逆断層は,その後も引き続き活動して,地向斜の岩層を台地の輪郭にあわせて外側の台地準平原面(大洋底モホ面)上に押し出した.このような過程で,縁海(中央台地)-島弧(周辺地向斜-造山帯)-海溝(圧縮帯)が形成された.中央台地をもたない幅の狭い地向斜盆の場合,地向斜-造山帯の隆起は逆断層をともなう岩層の押し出しはない.大洋の海嶺はこのような地向斜-造山帯から構成されている.

 玄武岩時代は,中生代から現在までの地球の最も新しい時代であり,カルシウムに富む玄武岩質火成岩マグマの活動によって特徴づけられる.それによって,海面上昇をともなう陸地と太洋底の隆起(造陸運動)とが起こった.この玄武岩質火成岩は,主に岩流圏起源の高温・高圧マグマで,体積を増大して岩石圏の弱線(始生代の線構造)に沿って線状の深部断層を生じた.それらは,水平に広がり,台地の基盤の下を持ち上げて迸入した.マグマは,陸上に噴出して台地玄武岩となり,海底に突き出たものは準平原化された上部原生界基盤の一面をおおって,現在の海洋地殻を形成した.変形して隆起した堆積層は島弧や海嶺を形成した.中生代以降の海洋底玄武岩層の付加による大洋盆底の隆起によって,海水準は6km上昇した.

 玄武岩時代のテクトニクスの特徴は断層地塊と傾動であり、そして特に、ネオテクトニクス期とよばれる最後の時期には,きわだった特徴を発展させ,現在の地球表面の地形を形成した.

 星野は,本書で地球の歴史について,「地球の歴史は,斉一説(チャールズ・ライエル)でも弁証法進化の過程(Zhang, 1984)でもなく,誕生から死にいたる発展過程であろう地球の死は,いつむかえるのであろうか.それは,地球の膨張力が終わる日か,それともしっかりした珪質で結合した地殻が破壊される日であろうか.地球の死の物語は遠い未来である.なぜならば,232Th(トリウム)の半減期は141億年であるからである.」と言及している.

Zhang, W.J. 1984. An introduction to Fault-block tectonics. Petrol. Industr. Press, Beijing, 385p.



 目  次

 まえがき

 Ⅰ.地球の起源
  1.熱雲の集積と2種類の隕石
  2.カイラン岩と玄武岩
  3.地球発達の駆動力

 Ⅱ.海水の構造地質学的諸問題
  1.海水の起源
  2.海水の組成
  3.基準面
  4.ユースタシー
  5.海進・海退
  6.不整合

 Ⅲ.花崗岩時代
  1.上部大陸地殻の形成
  2.花崗岩時代の構造特性

 Ⅳ.漸移時代
  1.台 地
   1.1 台地の隆起
   1.2 残留盆地(台地)
    1.2.1 旧期残留盆地(台地)
    (1)タリム盆地
    (2)南シナ海盆
    (3)黒海盆
    (4)東地中海盆地
    (5)アドリア海盆
    (6)アマゾン盆地
    (7)メキシコ湾海盆
    (8)北アメリカ残留盆
    1.2.2 新期残留盆地(台地)
    (1)パノニア盆地
    (2)チレニア海盆
    (3)ベネズエラ海盆
    (4)日本海盆
    (5)中国東北部の松遼盆地
   1.3 台地の蓋層
    1.3.1 ストロマトライト(苦灰岩体)
    1.3.2 蒸発岩層
    1.3.3 オーソコーツァイト
  2.地向斜・造山
   2.1 地向斜盆の「沈降」
   2.2 地向斜盆のモホ面深度
   2.3 リフト谷
   2.4 オラーコジン
   2.5 海嶺・海山列
   2.6 オフィオライト

 Ⅴ.玄武岩時代
  1.玄武岩時代とは
  2.溢流玄武岩
   2.1 溢流玄武岩の分布
   2.2 大洋底玄武岩の岩石学
  3.玄武岩時代の花崗岩
  4.ネオテクトニクス期の地殻隆起運動
  5.海 溝
   5.1 分布と地形
   5.2 海溝の堆積層
   5.3 海溝の基盤岩
   5.4 縁辺海膨
   5.5 海溝と地震
   5.6 海溝の成因
  6.玄武岩時代の海水準上昇
   6.1 地殻の隆起と海水準上昇の同時性
   6.2 大陸斜面の沈水
    (1)ジュラ紀後期~白亜紀初期
    (2) 白亜紀中期
    (3)始新世
    (4) 中新世末期
    (5) 鮮新世初期
    (6) 更新世初期
   6.3 陸橋
    (1) ゴンドワナ大陸
    (2)ジュラ紀後期/白亜紀初期の陸橋
       ワルビスーリオグランデ陸橋
    (3)白亜紀中期の陸橋
      オーストラリア区
      ファンフェルナンデス諸島
    (4)始新世の陸橋
      マダガスカル島
      チユリアン陸橋
      ガラパゴス諸島
    (5)中新世の陸橋
      沖縄古陸
      ワレーシア区Ⅰ
    (6)鮮新世/更新世の陸橋
      八重山古陸
      ワレーシア区Ⅱ

 Ⅵ.結 語


2014/8/11
2015/3/18

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