| 病院のないゴビ |
| 午後五時に、朝に訪問したお父さんのゲルに立ち寄った。女たちが馬の乳をしぼっている。それぞれの子馬を母馬の近くに寄せて、子馬がまるで乳を飲んでいるかのように母馬に思わせて乳をしぼる。 乾燥ヨーグルトをつくっているそばでは、2才くらいの女の子が鼻をたらしながらはだかで遊んでいた。モンゴルでは子供たちを寒さになれさせるために夏にあまり服を着せないらしい。お世話になった彼ら家族に、ポラロイド写真をプレゼントして、そこを去った。 行きに通った川の跡を下ると、100頭ものラクダの大群がいた。岩場をぬけて南南西へ進み、灰色の砂岩の丘を登ると、南側に玄武岩の溶岩台地が見えた。西へ少し行くと、井戸があり、白い石を積んでつくった石囲いがあった。この石囲いの中はソガラ氏の畑で、そこではキュウリやトマトがつくられていた。石囲いに積まれた白い石は流紋岩の溶岩で、石英の結晶がたくさん入っているのが見えた。ここではキュウリとトマトをもらった。 西へ向かうとゲルがあり、そのゲルを訪問した。それは、ソガラ氏の義理の兄のゲルで、主人は床に寝ていた。彼は、数日前に岩場で落馬して肋骨を何本か骨折したという。病院も救急車もないゴビでは、病気や怪我は致命傷になる場合がある。 彼は痛さをこらえて体を起こし、我々を歓迎してくれた。しかし、その姿は痛々しかった。病院のないゴビでは、骨折などの怪我はもちろんだが、とくに子供が病気になった時にはさぞかし大変だろうと私は思った。このことは、ここに住む人たちの宿命なのだろうか。もし町や村にしっかりとした病院があり、ゲルに電話か無線があれば、そして救急ヘリコプターがあれば、この問題は解決しないだろうか。 午後7時すぎに、流紋岩の溶岩と白い凝灰岩が露出している崖を見学した。この地層はツァガンツァフ層に相当する。ツァガンツァフ層は東ゴビでは玄武岩の溶岩と白色凝灰岩だったが、南ゴビではおもに流紋岩の溶岩と白色凝灰岩の組み合せになる。トゥンバイヤーは、ここからリチウムを多くふくむ凝灰岩を以前に発見したと言い、崖に登ってその凝灰岩の岩片を私のために採ってきてくれた。 空にはすでに月が昇っている。今日は仲秋の名月である。 |