博物館におけるホームページ
の活用と展開


柴 正博・石橋忠信

静岡県博物館協会研究紀要 第21号 p.11-21 1998年3月


1。はじめに

 博物館は博物館の収集した「もの」や「情報」を展示し、社会に何らかのメッセージを発信するところと私たちは考えています。博物館のメッセージはその博物館の中だけでなく、博物館の外にも広く発信されるべきもので、それが博物館の普及教育活動の展開となります。

 インターネットを利用したホームページは、情報発信の手段として近い将来に博物館にとって普及教育活動の重要となるでしょう。私たちが博物館のホームページをつくりはじめたとき、ある人から「ホームページはそれをつくる人たちの主張を発信するものだ。」とアドバイスを受けました。

 あなたの博物館は主張すべきメッセージを明確にお持ちでしょうか。

 本稿では、博物館におけるホームページの利用について、そのメディアとしての特徴や博物館活動への有効性、さらに将来の発展について述べたいと思います。また、本研究では博物館のコンピュータ利用やホームページの公開などについて静岡県内の博物館にアンケートを行いました。この調査結果も含めて、博物館におけるホームページ活用の現状と活用への問題点についても検討いたしました。

 本研究は、平成9年笹川科学研究助成(9-330G)を受けて行いました。また、私たちの発送したアンケートに快く回答してくださった静岡県の87館の博物館関係者に紙面をかりて感謝いたします。


2。インターネット網の発展と戸惑い

 公衆回線などを利用したインターネット網は現在急速に発展していて、ホームページを公開した博物館もこの1年で10倍以上に増加しています。ただし、日本ではインターネットを用いたホームページの公開の試みはまだ始まったばかりで、現在日本の博物館でもインターネットを利用してホームページを公開している博物館はそれほど多くありません。

 私たちは1996年5月に東海大学社会教育センターのホームページを開設・公開しましたが、この経緯やホームページの製作についての詳細は柴・石橋(1997)をご参照ください。

 1997年10月に私たちが調査した結果では、日本の博物館約3500館のうちでホームページを公開しているところは500館程度ですが、その多くは市町村やNTTや富士通などの企業、それと全国科学施設協議会など博物館関係の協会などのページに付加されている観光施設案内や博物館紹介程度のもので、博物館独自でホームページを製作・管理しているところは100館程度と推定できます。また、サーバーを設置して館内LANやホームページ、データベースの公開などに利用している博物館はほんのひとにぎり(20館程度)と推測されます。

 博物館は将来の生涯教育の核として期待され、現在文部省からの予算を受けて科学館・自然史博物館と動物園水族館協会などで、それぞれ教育ネットワークの構築プロジェクトがはじめられています。また、美術館・博物館においては、文化庁が中心となりインターネットを利用した文化財情報システムの構築も進められています。

 しかし、博物館相互のコンピューター・ネットワークの構築には、博物館の大小にかかわりらず、多くの博物館が独自にデジタル・データベースを整え、ホームページなどを開設してネットワークに参加できる体制をつくる必要があります。すなわち、コンピュータ・ネットワークに参加する博物館が多くなってこそネットワークが成立するのですから、各博物館が独自にホームページを公開したり、収蔵資料のデータベース化や個々の環境整備を現状で整えなくてはなりません。

 ここ数年の間に起こったパソコンの急激な普及とインターネットの発展は、それに係わりのなかった人たちには、その実態がわからずに大きな戸惑いをもたらしています。しかし、将来の博物館や博物館におけるインターネット利用、さらにコンピュータ・ネットワークの構築を考慮すると、インターネットやホームページといった手段や、さらにそれらを利用したテレコミニケーション・システムを十分に理解する必要があります。そのため、これらに対する理解の啓蒙とともに、いろいろな博物館における個別の条件なども含め様々な現状について検討する必要があると私たちは考えました。


3。ホームページに関するアンケート結果

 静岡県の博物館142館に、1997年12月(12月1日発送、12月31日締め切り)に図1のようなアンケートを実施し、87館から回答を得ました。このアンケートは博物館および動物園水族館の学芸担当者宛てに発送したものです。

 回答率が61%ということで、これをもって静岡県の博物館全体を把握できませんが、無回答の館の半数以上はこの問題についてあまり関心がないか、この問題に対応する担当者が不在と考えられます。したがって、回答数の全体(87館)に加え、発送総数(142館)を母集団とする率も出しておきます。

 博物館にコンピュータがある館は、回答館のほぼ半数(54%)で、総数から見ると33%です。したがって、実態としては静岡県の博物館にコンピュータがあるのは半数以下となります。また、その用途の質問では多くの館(35館)で資料整理に活用されていますが、経理事務のみに利用されている館もあります。

 インターネットを利用している館(ないし職員利用)は21館で回答館の24%、総数の15%で、ほぼ2割弱がインターネットを利用していると考えられます。インターネットが利用できるまでの問題としては、コンピュータなどのハードがなかったことやそれを購入する予算がなかったことが上げられています。それを利用するための知識や技術、時間や人手の問題もありますが、やはりコンピュータがないことにははじめられないことが明確にでています。

 ホームページを持っている館は16館で、回答館の18%、総数の11%にあたります。ホームページは製作過程やその管理方法などから以下の4つに大きく分類できます。

  1. 博物館で独自に作成し、博物館のサーバーで公開している。
  2. 博物館で独自に作成し、他の機関のサーバーで公開している。
  3. 他の機関からの依頼で、博物館が協力して共同で作成・公開している。
  4. 他の機関が作成したものを承認して、他の機関が公開している。

 このうち、博物館がホームページを独自に作成し、管理も可能なのが、1と2です。私たちが重要と考えるホームページは、他の機関が製作したものでなく、博物館が独自に作成し管理するないし管理できるもので、そのようなホームページをもつ博物館が、私たちの製作した東海大学の3館が含まれていますが、11館あります。

 ホームページの作成にあたっての問題としては、どこが作るかといった作成部署の問題が多く、外注やハードの調達も問題としてあげられています。また、その他として職場の理解を得るのに苦労したというものもありました。

 ホームページでの問い合わせ対応については、ほとんどが拒否せず担当者が対応しているようで、後述するホームページの役割についても多くの館がリファレンス(問い合せ)に大きな意義を認識している点、ホームページを肯定的に活用して(しようとして)いる姿勢が伺えます。

 今後ホームページを公開する方針をもつ館は10館あり、希望をもつ館は24館あり、すでにもっている館と合わせれば、将来ホームページをもつだろう館は50館に及びます。また、ホームページの役割や意義については、広報・展示解説といった博物館の情報発信とともにリファレンスという役割を重要視していることも明らかになりました。

 設問の12〜14では、ホームページ製作やインターネット利用についての講演会や講習会、電子メールを利用した情報交換などの希望をお聞きしましたが、回答館の半数以上がそれらを希望していることがわかりました。

 全体として、静岡県の博物館ではコンピュータさえない館が半数以上で、インターネットを利用している館もまだ2割程度ですが、ホームページの開設やインターネット利用を考えている博物館は多く、関心も高いと考えられます。


4.情報発信としてのホームページ

 ホームページは博物館の情報発信のひとつの手段であり、この1年で博物館のホームページが10倍に増加したという事実からだけでも、将来この手段は大きく発展していくことは明らかです。博物館の行事や新しい展示、それと一般の人が興味をもつ情報など、博物館の中に掲示するだけでなく、ホームページに掲載することにより、興味をもつより多くの人がその情報を知ることができます。また、興味ある情報を博物館が次々と提供できれば、そのホームページにはリピーターが増加します。

 ホームページは博物館と同じで、作ればおしまいではありません。常に更新されて新鮮な情報(展示)や興味ある情報(展示)が供給され、コミニケーションが広がり、ホームページを見にくる人(来館者)が増加します。ホームページによって、一般の人はその博物館の教育活動や研究活動の姿勢やメッセージ(主張)を知り、興味をもてば実際に来館したり、将来博物館を支えるメンバーにもなるかもしれません。

 博物館におけるホームページの活用目的を、私たちは最初、単に博物館の標本や資料の公開と博物館活動の紹介にあると考えていました。すなわち、ホームページ自体は単なるメディアのひとつなので、博物館の標本やさまざまな活動を紹介するためのひとつの手段としてホームページがあると考えました。

 ですから、ホームページを作るために本来新たな資料を作る必要はなく、実際にある資料や博物館の活動の結果をホームページに掲載していけばよいと考えました。たとえば常設展示についての紹介は、展示解説書をホームページに掲載すればよいことで、展示解説書に使用した写真(画像)と文章(テキスト)があれば印刷費がかからずに作成できます。

 ホームページには今までの情報の掲載・公開という面と、新しい情報を知ってもらうという面があります。情報発信と言っても誰もそこの博物館のホームページを見てくれなければ、それは伝達されない情報になってしまいます。看板はつくった時は注目されますが、長年同じ看板では飽きられて、誰も見なくなります。また、見ても興味のわかないページでは、やはり見る人もいなくなってしまいます。ホームページは、見る人の興味をそそるような、見る人のニーズを満足するような、そしてアクティブな面をもっていなくいては情報発信には役立ちません。

 博物館の資料や活動のこのような紹介は、博物館側からの一方的な情報発信の手段としてのインターネットの利用です。これらの中には、博物館の紹介(博物館のパンフレット、利用説明書)、博物館展示物の解説(展示解説書)、博物館収蔵データベース(収蔵リスト、収蔵資料集)、博物館の普及誌、博物館の催し物情報などがふくまれます。このような博物館のホームページの役割は博物館に展示があることと同様に基本的なことで、ホームページは既存のパンフレットや展示解説書、催し物ガイド、年報などと同様の活用ができます。


5。ホームページのインターラクティブな活用

 インターネット利用の特徴は、一方的な情報発信だけでなく、双方向および即時性、すなわちインターラクティブな活用にあります(図2)。ですからホームページ利用の次の展開として、博物館利用者との双方向および即時的なコミニケーション利用を考える必要があります。

 それらの活用の中には、各種問い合せの即時対応、データ検索・情報サービス、メーリングリストやニュースを利用した友の会などの情報と会議サービス、CGIを利用した掲示板やチャット利用によるフォーラムなど公開会議などがふくまれます。実際の日本の博物館で現在このようなサービスをしているところはまだほとんどありませんが、先進的ないくつかの博物館の中には公開会議や情報サービス、データ検索を行っているところもあります。

 この分野では、今後どのようなサービスができるか予想できませんが、博物館側からの積極的なこのような活動は、新たなニーズや一般の支持者を生みます。このようなインターネットやホームページの活用は、単なる展示館としての博物館のイメージを一新し、情報館として、そして一般人が博物館活動に参加する新しいタイプの博物館を生み出すことでしょう。

 また、「インターネット」と言うとグローバルなネットを想像しますが、インターネットは実は地域ネットとしてより有効に利用できます。地域の情報を地域のために、そして日ごろあまり交流のない同一地域の博物館同士の情報交換の場にインターネットは利用でき、地域興しの核となる地域ネットを構築することを可能にします。


6。博物館内部のデジタル・システムの構築

 今まで述べたようなホームページの利用はおもに、博物館の外に対しての利用やサービスでしたが、これらの活動を進めることはむしろ博物館内部の業務のデータベース化やOA化を進めることにつながります。本来は、データベース化されたデジタル・データをもとにホームページが作成されるべきなのですが、ホームページを作ることにより博物館の標本資料の整理や活動記録のデジタル化が進みます。ホームページ自体は外部に対しての情報発信なのですが、実は博物館内部の職員がもっとも重宝するデータベースにもなります。そのことを考えて、あらかじめデータ・システムの設計をしておくと、博物館内部全体の新たなデジタル・データ・システムをつくることができます。

 また、ホームページやテレコミニケーションは館内でのイントラネットとして職員の利用に有効で、他の博物館などとの相互データ利用、すなわちインターネットを利用した情報収集と外部とのコミニケーシュン利用や、業務のテレコミニケーション化による業務・情報システムの再構成をさらに進めることができます。そして、それは新しい博物館システムとその活動の構築へとつながります。

 ある目的のために「もの」を調査・収集し、保管・収蔵および研究して、その成果を教育・普及するという博物館の機能を考えれば、その仕事やデータ全体をデジタル・データという形で残し、ひとつの流れ(系)の中で館内および館外の人にも利用できるようにすることは、博物館の最も重要な仕事のはずです。この重要な仕事は学芸員が中心となりシステムを構築し、そのための新しい部署も必要となるでしょう。そして、その仕事はさらに博物館の情報管理や情報提供という面で、博物館活動における新たなニーズを今後つくり出していくと私は確信しています。

 そのためには、博物館にサーバの設置はもちろん情報管理・運営の部署、テレコミニケーシュンを活用的に進めるための小回りのきく組織、そして博物館におけるドメイン(組織体の活動範囲や領域)の明確化と、いままでのそして将来のドメイン戦略、すなわち新しい博物館とあるべき組織の検討が必要になると思われます。これら新しい博物館とその活動の発展のそのためにも、博物館のホームページは学芸員が中心となり博物館独自で作成し、博物館活動のひとつとして位置づけて、活用されることを期待しています。


7。博物館のホームページ作成の問題点

西村(1996)は、博物館におけるマルチメディア利用の課題として、以下の問題点をあげています。

  1. 専門職員がいない。
  2. 活用に必要な知識の不足。
  3. 施設導入に必要な予算がない。
  4. 情報の入力費用や導入後の維持費が高額になる。
  5. 技術の進歩が早く十分に対応できない上、導入した装置が短期に陳腐化する。
  6. 情報を提供し、交換しようとすると、著作権処理が大変である。
  7. 予算を獲得し、有効利用につなげるため、先進事例や有効事例を知りたい。
  8. 情報内容や長期に活用でき、他施設と交換できるように標準化を促進してほしい。
  9. 他施設との相互協力や情報交換で内容充実をはかりたい。ソフトウェア・情報制作や内容の更新にひようがかかる。どの年齢層でも気軽に利用できるよう操作を簡易化して欲しい。

 博物館のホームページでもこれと同じような問題点があります。しかし、これらの問題点はありますが、予算がなくても、専門職員がいなくても、コンピュータとモデムさえあれば、独自でインターネットを利用したり、ホームページを作ることもできます。実際に私たちは、大学のサーバを借りる形で、個人でプロバイダーと契約し、コンピュータとモデムだけでホームページを開設し運営しています。

 ホームページの公開やインターネット利用についてのもっとも大きな問題点は、ホームページやインターネットについての職場(博物館内部)や組織の理解がどれくらい得られているかということにあります。多くの博物館や博物館職員はインターネットや将来のテレコミニケーションについては戸惑いか無関心の中にいます。

 博物館がその組織としてきちんとした形でこの新しいメデアについて検討し、博物館としてのメッセージやドメインの明確化、そして組織自体の再構築も考慮して活用し展開していけば、問題点はなくなるでしょう。しかし、それができなければ、その博物館のホームページやその博物館は将来十分に発展することはできず、ただ単に更新もされない誰も見ない広告看板と同じになってしまうでしょう。


8。私たちの研究

 私たちは博物館でホームページの制作にかかわり、博物館におけるインターネット活用とコンピュータネットワーク利用の重要性に気がつきました。そこで、「博物館にホームページを!」というホームページを公開して、博物館におけるホームページの活用と博物館ネットワーク構築についての研究を行っています。

 この研究では、小さな博物館でも独自にホームページを開設し、博物館のコンピュータ・ネットワーク構築に参加できる方法を検討しています。また、それにともなういろいろな問題点について整理し、今後の博物館相互のコンピューター・ネットワーク構築の指針を提案しようというものです。

 この研究は実質的に、ホームページの掲示板やメーリングリストを用いて、現在ホームページを開設していたり、これから作ろうとしている博物館の担当者や博物館に関心のある方々が参加するネットワークをつくり、学芸員相互の連絡・情報交換の場をつくっています。そして、それを利用して、ホームページ開設や資料のデーターベース化に係わる情報を収集し、同時にその公開とさらにデータ交換などの実験を行っています。

 また、このサイトでは、全国の博物館3500館の住所やホームページへのリンクさらにそれら住所録デジタル・データのダウンロードもできます。

 みなさまの中で、これらのことに興味がある方がおられましたら、私たちのホームページにアクセスしていただき、ぜひメーリングリストにご参加ください。


文 献

西村逸郎(1995)博物館におけるマルチメディアの利用課題。博物館研究,v.31(9),13-15.

柴 正博・石橋忠信(1996)東海大学社会教育センターにおけるホームページの開設.静岡県博物館協議会研究紀要,No.20,51-60.


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最終更新日:00/04/27

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