海洋地質学


星野通平
地学団体研究会 1993年9月

cover of this book
 私がこの道の出発点に立ったころ,手引きとすべき海洋地質学の教科書は,F.P.SHEPARDのSubmarine Geology(1948)や,PH.H.KUENENのMarine Geology(1950)など,すべて外国人の手になるものだけであった。

 私は,いつの日にか海洋地質学の体系をまとめた日本語の本を執筆したいと考えた。しかし,私なりの考えで海洋地質学の体系をまとめようとすると,本書のような疎雑な内容のものでさえ,30余年の年月が必要であった。

 現在,世界に海洋地質学と名づけられた類書はかなりの数にのぼる。しかし本書は,私なりの「海洋地質学」であり,最初から最後まで私の設計によって組立てられている。

 従来の教科書に述べられている内容にくらべて,まったく異質のこの私の考えが,将来,真の法則・理論のはしくれとして認知されるか,あるいは,無駄な時間をついやした世迷言に終るかは,いずれ各種の地下資済開発や,地震・火山の予知などにたずさわる人たちが審判を下してくれるであろう。すでに,鮮新世の大規模な海水準上昇を主張する石油地質家や水文家がいて,私は大変心強く思っている。

 科学史をひもとけば,それぞれの分野で大きな発見・知見が生まれると,その解釈をめぐって混乱が生じることがしられている。地球収縮説と陸域の地質にもとづいて体系づけられた地質学は,第2次大戦後に提唱された,地球の宇宙塵(隕石)起済説と,海洋地質学の成果,とくに,大陸にくらべて大洋底がはるかに若い地質時代のものであるという問題をめぐって,いま収拾のつかない混乱に陥っているように思われる。

 本書は,大陸地殻を特徴づける花崗岩層にくらべて,大洋地殻を形成する音武岩層の活動は,地球の歴史の歩みからするとはるかに新しいものであり,この新しい時代の玄武岩層の形成によって,大洋底は上げ底になり,海水準が大規模に上昇したという私の仮説をとりまとめたものである。

 私は,図表のないC.ダーウィンの「種の起瀕」をよんで深い感銘をうけ,ことばだけの本を書きたいと思ったことがある。本書の図表の配列に難があるのは私のそのような思いの反映かもしれない。また,海洋地質学は地質学のすべての分野を包含するもので,これを1人でとりまとめるのは至難の業である。各所に私の勉強不足が露呈しているかもしれない。 これらの点について読者の御寛恕をお願いする次第である。

 本書を刊行するにあたって,さまざまな御指導をいただいている井尻正二・湊 正雄・牛来正夫の各氏,日常お世話になっている杉山隆二・早川正巳・柴崎達雄の各氏,および,本書の刊行準備にあたって助力をいただいた佐藤 武・中陣隆夫・伊津信之介・花田正明・根元謙次・柴 正博の諸氏に厚くお礼申し上げる次第である。

 なお,私の見習時代の成果を専報(1958)として,海水準上昇の“天神の鶏鳴”を地団研双書(1962)として,そしていま,私なりの“ミネルバのフクロウ”の飛びたちの本書を刊行していただいた地学団体研究会の会員諸氏にお礼を申し上げる。

星野 通平
    1983年8月8日

    (本書の「まえがき」より)


2001/09/02

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